少女ファイト

大筋のストーリーは、主人公が所属する黒曜谷(こくようだに)高校女子バレー部がバレーボールの甲子園「春高」を目指す、非常にシンプルなものです。この漫画の真髄は、登場人物全員のキャラ設定がめちゃくちゃ作り込んであり、未成熟な少年少女が自分たちのデコボコさを補い合って埋めていく成長過程にあると思います。主人公の「大石 練(ねり)」はバレーが上手くても周りとうまくやるのが不得意で、小学生の頃のあだ名は「狂犬」と呼ばれるほど。しかし優しくナイーブな面もあり、信頼していたチームメイトの裏切りから自分を出せなくなるなど、多面的に描かれていて魅力的です。

他の登場人物もとても人間味豊かで、例えば同じ小学校出身で練の親友である「唯 隆子(ゆい たかこ)」は、最初これ以上ないのではと思うほど「悪役」らしく登場します。高校でのチームメイトからは実力があっても礼儀知らずのサボリ魔と思われていたり、練と共通の幼馴染「式島 未散(しきしま みちる)」のことを影で脅していたり。これは作者の非常に上手いところだなと思うのですが、未散(♂)はメインキャラクターであり彼が「こいつは悪いやつだ」と考えているように描写されると、読者もそうなのかな?と思ってしまいます。しかし、隆子の行動の裏には彼女なりのポリシーや生き方、トラウマといったものが根付いていて、読み進めるほどに隆子の魅力に気づかされます。芯の通った格好良さと自分を貫く強さ、16歳でそれを身につけざるを得なかった彼女の闘いとそのために抑圧された弱さ。まだ全貌は明らかになっていませんが、剥がせば剥がすほど魅力的なキャラクターです。一面から見ると「嫌なヤツ」でも違う面があり、本当の姿がある。読み始めた当時中学生だった私には、いろいろと勉強になった漫画でもありました。

これはごくごく一部ですが、こんな風に登場人物の生い立ちや性格が非常に繊細に表現されています。未成熟なのは生徒たちだけではなく、監督やコーチといった大人たちも日々迷いながら必死に生きています。そんな彼らが同じく未成熟な周囲の人とわかり合い補い合って成長していく様には、勇気を分けてもらえます。